ゼロの使い魔 ハルケギニア茨道霧中
第一話「新たな一歩」




 ブリミル歴六二四〇年、暦では第四の月にあたるフェオの月。
 ここ最近は新しくセルフィーユ領に加わった王領への政策決定や、一応はリュカやゴーチェらに任せてはいても、流石に放り投げてしまうわけにはいかない感謝祭への準備などに追われ、昼間は何くれとなく忙しいリシャールであった。
 逮捕と釈放と陞爵と新たな領地拝領、更には空賊退治の一件が尾を引いてラ・ロシェールへの再訪やら王都でのごたごたも続き、ついでにカトレアから是非にと言われキュルケの魔法学院入学を祝いにツェルプストーへの訪問を行うと、もう月の変わり目が過ぎていた。
 いまも執務室の机の上には、左手に未処理の書類が、右手に処理済みの書類が、それぞれ篭に積まれている。大半が新たな領地のもので、農地の貸借や狩猟・漁労・入林の許可など領民の生活に関わるものだった。
 今回は運良く……いや、マザリーニも当初よりそのつもりであったのか、代官の手元にあった税務台帳を手に入れられた領が二つ、そのうちの一カ所で代官の逮捕があったが、それはまあいい。
 結局足りない情報を補うのに、クレメンテに手を回して貰ったおかげで参照することの出来た教会の所持する信者台帳と照らし合わせながら現地で聞き取りを行って戸籍簿を再整備したのが、つい先日だった。
「ほんと、やれやれだ」
 差し迫っているのは感謝祭で行われる領空海軍の発足式とその後の観艦式、それに伯爵への陞爵と共に命ぜられた国境警備任務に伴う領軍の再編である。新たな領地の安定は急務だった。
 前者二つはそれぞれの司令官に大半を任せているが、後者はそうもいかない。
 特に深刻なのは領内での格差だ。
 人口も流入して景気の良いラマディエや領主のお膝元で鉱山も好調なシュレベール、出稼ぎ組も徐々に戻り新たな農地開墾さえ考えられはじめているドーピニエ。
 たった二年であれ、舵取りを擁して大きな成長曲線を描いた子爵領時代のセルフィーユと、代官からは搾取を受けるだけで大した開発指示も受けていなかった新領地では、聞き取りをするまでもなく大きな差があった。
 無論すぐに埋まる差ではないが、手当だけは即刻行わなくてはならない。
 街道工事を任せている親方衆から人手を割き、領内道の拡張工事に当たらせて地域の領民を雇うことでカンフル剤とし、各村長らと相談を重ねては領民への農具や家畜の貸し出し、あるいは林業や鉱山などへの助力を約束してまわった。既に一部では実行に移されている。
 今書いている布告には、領内での仕事案内や感謝祭の内容を伝える文章も盛り込んでいた。季節の変わり目は風邪を引きやすいので注意するようにと、いつものように締めくくってある。週に一度出される布告は領民を気遣う風に見えるよう内容にも気を配ったものであったし、新領地については、セルフィーユ拝領当初にラマディエやシュレベールで行ったように、生活基盤の再建が最重要課題であるとして家臣団にも知恵を出すように指示していた。
 これらの予算には、ウェールズ皇太子との取引が一段落ついてもなお全力稼働中であった武器工場の利益から、感謝祭に使われる費用を除いたほぼ全額が使われた。王軍での採用を見て、同型式の物を買い揃えたいとアルビオンの諸侯より発注があったのだ。もちろん、ひと月半でマスケット銃が稼いだ二万エキュー余りはあっという間に消え去ってリシャールを嘆かせたが、後には税となって回収されるものだ。ここが我慢のしどころである。
 イメージ戦略とまで言うと語弊も虚構も含まれてしまうが、叛乱の抑制や税収の安定には、領内への投資はそれなりに有効な手だてだった。
 給与の支払われない労役は当然ながら厭われるし、強制的な徴用ならば仕事を持つ者は本業を放り出すことになり、結果として年末に集められる税収の減額に繋がる。
 また、同じ金額を費やして軍備を調え力でもって不満を押さえつけるよりは、遙かに建設的な効果が期待できるのだ。

「リシャール様、領軍のレジス司令官がお見えです」
「マルグリットさん、こっちの書類は確認が済んでいます。
 それから少し長くなると思いますので、至急の用があるなら遠慮なく声を掛けて下さい」
「はい、畏まりました」
 書類束を抱えて出ていくマルグリットと入れ替わりに、やはり書類鞄を抱えたレジスが入室してきた。セルフィーユは領内再編成の最中であり、管理する村が増えたマルグリット同様、レジスも守るべき地域が増えて忙しいのだ。
「領主様、こちらが新しい編成表になります」
「失礼。
 ……やはり増員は必要ですか?」
「はい、流石に再配置だけで王政府の要求全てを満たすことは、不可能でありました」

 陞爵に伴って無償で下賜された四つの王領だが当然ながら手放しで喜べるようなものではなく、どちらかと言えば王政府が……いや、マザリーニが襲撃事件を利用して廟堂で立ち回り、都合良くリシャールに押しつけたという想像がつく。負担が若干利益を下回っているような『気がする』あたりが、なんとか反論を封じているという真に微妙な領地拝領であった。もっともそれはあくまでも現状であって、苦労と苦悩があるにせよ、将来リシャールが得る利益を考えれば破格と言えた。何も寂れて傾きかけた領地だからと、そのまま放っておく必要はない。
 後から義父に聞かされた話によれば、当初は国境に接する三領のみの下賜であったはずが、貴族院内で丁々発止のやり取りと恩賞と言う名の口封じと役務負担の綱引きが行われた結果、四領の拝領となったらしい。貴族院の議員達がよくもまあそのような決定を飲んだなとリシャールでさえ思うが、王家からのリシャールへの詫びを込めた手引きに加えて、領地からの上がりだけで国境警備に必要とされている軍役を負担すれば年度末を待たずに破綻すると表書きが貼られていれば、爵位と共に押しつけてしまえとなっても不思議ではない。彼らは皆、利得や損益には敏感だ。
 この四領、北から順にル・テリエ、ラエンネック、エライユ、サン・ロワレと名が付いており、それぞれがゲルマニアと国境を接していた。
 セルフィーユ併合前は、ル・テリエの関所と灯台、ラエンネックの見張り台、エライユの駐屯地とその部隊の維持費用はそれぞれ中央が負担し、代官は領内にのみ責を負っていた。三領合計七、八百人の人口が負担する税だけで百人からの兵士を維持するのは土台無理な話である。その王軍の部隊にしても、通常は三個小隊と支援部隊で編成されるはずが第三小隊の欠けた二個小隊のみで編成された中隊で、王政府の懐具合を端的に示すものだった。セルフィーユ領に組み入れられる前は中央の負担となっていたそれも、下賜後は領主の義務としてセルフィーユ伯爵家の預かりとされ、リシャールが四苦八苦する原因となっていた。実務に支障を来す最低限の兵士のみを領軍より抽出して配置換えを行い、有事にはフネを派遣することで駐留部隊の代役とさせることを王政府が認めなければ、またぞろ赤字が増えるところであった。
 引き替えにサン・ロワレというやはりセルフィーユに、そして国境に隣接する王領が加えられたが、前三者に比べればいくらか状態がましではあっても、こちらはこちらで貴族院や王政府の資料にある額面通りには税収がおぼつかない土地だった。将来性は見込めるが、現状は火消しにもほど遠い。
 セルフィーユは相変わらず、危ういバランスの上に成り立っているのである。

「ここの庁舎から引っ越して砦を領軍の本部として使うことにしましたが、その他にも、関所と見張り台にはやはり人を置かなくてはなりません。
 無論、工場や庁舎のあるここラマディエの警備を薄くしすぎるにも難があります」
「増員二十名ですか……。
 五割増に収まったことを喜ぶべきでしょうね」
 関所そのものの運用は王政府が官吏を派遣して行うのだが、各々十名程度は兵士を配置しないと実務に支障が出かねない。灯台の方も魔法の明かりを杖の一振りで灯すようなものではなく、灯心式の大きなランプに金属の反射板がついたハルケギニアに於いても旧式とされる代物であった。当然、どちらも多くの人手を必要とする。
「閣下、建前はともかく、これはあくまでも国境の警備業務を維持する部隊。領空海軍のフリゲートは頼りにしていますが、ゲルマニアに本気で攻めかかられればどうしようもないことだけは確実です。
 元から駐屯していた中隊規模の部隊よりはフリゲートの方が余程頼りがいはありますが……国境の防衛までは意識するだけ無駄ですな」
「こればかりは、まあ……。小国の哀しいところです」
 小競り合いならともかく、現在のトリステインとゲルマニアでは国力からして差がありすぎた。いくら歴史と伝統を誇ったところで、勝てないものは勝てないのだ。
 レジスなどは中央の士官学校出ではあっても、紆余曲折の末にセルフィーユへと流れてきただけあって、現実を正面から見据えてその中で可能な最良の方法を見出そうとしている。リシャールとしては、人材にだけは恵まれているなと苦笑するしかない。
「ともかく募集は二十人、兵種の振り分けはレジス殿にお任せします。
 それと……上申のあった伝令用の馬は、少し待って下さい。
 募兵とどちらを優先すべきか迷いましたが、王政府から出ている用件を先に満たしておく方がよいとしました。
 新領地での雇用の創出という面を重視していることも否めませんが……よろしいですか?」
「は、了解であります」
 領地が広くなって連絡に使う馬を以前よりも多く必要とすることはリシャールにも理解できていたが、直接戦闘に使える軍馬よりもずっと安価な乗用馬でも、数が必要だとそれなりに大きな金額になる上に飼い葉も馬鹿にならない。新たに牧草地でも確保するかなと、心の中にメモを残す。
 レジスにとっては職務の円滑な遂行上早期に必要なものだろう。だが彼は反論もなく頷いた。
 吝嗇で出さないのならリシャールに対する不満にもなろうが、幸いにしてその心配だけは無用だった。
 セルフィーユ家の懐事情は、要職にある家臣には筒抜けなのである。

 書類仕事を終わらせて息抜きに武器工場の視察を行い、責任者のフロランと新たに試作を依頼中の艦載砲について意見を交わしていると、既に夕方近くになっていた。領空海軍のラ・ラメー艦長らも巻き込んでいるが、彼らは彼らで領空海軍の発足準備や空賊絡みの後処理などに忙しい。
 慌てて庁舎に戻り、マルグリットらに申し送りの確認だけをして城に戻る。贅の限りを尽くした饗宴とはとても言えないが、時折、夜に人を招いて簡単な食事会を行っているのだ。
 リュカやゴーチェらと領内の話をすることもあれば、クレメンテ司教を招いて政策についての相談事を行うこともある。
 今日呼ばれているのは二十頃の、ラ・クラルテ商会の働き手だった。但し、明日より彼は一人立ちをして自らの商会を立てることになっている。
「君の一人立ちを祝して、まずは乾杯しよう」
「ありがとうございます、領主様」

 ラ・クラルテ商会で三年以上働き手として過ごし、読み書き計数に不自由なく、商才ありと認められる者。
 店舗や取引を任せられる能力と信頼のあること。
 本人が独立を願っていること。
 セルフィーユでの犯罪歴がないこと。
 そして、開業後は本拠をセルフィーユ領内のどこかに置くという条件を了承した場合。
 これらを条件に、子爵家が開業時に必要な諸費用に開業資金も加えた金子を融資して独立させる制度を設けたのだ。回収は徴税を通して行うので、利子などは設定していない。リュカら同様に、セルフィーユの商人として王都商館での優遇も受けられる。
 リシャールは以前より、自身がアルトワ伯爵より頂戴した門出の祝いを雛形に、領内に於ける商業振興政策の一つとして確立できないかと思案していた。そこにベルヴィール号のブレニュス船長に対して取った救済策を組み合わせてみたのだ。
 三年での独立は早すぎるとの意見もあったが、領内であれば資金の援助はともかくも指導や支援を行えるし、彼らも経験を積めるだろう。無駄金になる可能性もあったが、セルフィーユには人も増えたし物と情報は彼らを通してより動く。
 可能なら余所から流入して来るであろう商人たちを駆逐する勢いで勢力を伸長してほしいものだが、そこまでは望めまい。五年後十年後に一人二人でも店持ちになっていればまだよい方だろうなとは、残酷だが口に出せないリシャールの正直な分析であった。

 門出を祝うと同時に、リシャールも顔合わせだけはしておこうと時間を作っていた。現在は特例として一年以上と条件を緩和し、ラ・クラルテ商会で働く前に他の商家に勤めていた者たちを中心に選んでいる。
「まあそう緊張しないで」
「は、はい」
 リシャールは苦笑しながらも、そのうちどこかの貴族家と取引をすることもあるだろうし、この宴席は、門出を祝う以外にも商人として多少は慣れておくべき事柄の一つなのだと云う意味合いもあると説明をした。いや、自分も偉い人慣れするには時間がかかったかと思い返す。最初は義父との私的な酒席でさえ、不必要に緊張したものだった。
「ところで、君は何を扱うつもりなのかな?」
「はい、こちらでは流通の少ない嗜好品を扱いたいと思っています。
 王都では酒肴にも様々な種類があると聞きましたし、実際に王都行きの馬車にも乗せて貰いましたが、あちらの品数の豊富さにはただただ驚くばかりでした。
 でも、日持ちのする木の実や乾物ならば、こちらにも持ち込んで商う日にちは確保出来ると考えたんです」
「うん、それはいいなあ。
 ワインや蒸留酒はリュカ殿の店でも扱う種類が増えたけれど、こちらだと肴は魚介類が殆どだからね」
 目の前の彼は、こちらでの扱いが少ない物を商売の種に選んだらしい。
 嗜好品と一口に言っても、酒や酒肴、煙草、更には香茶や菓子など多岐に渡る。彼が主に扱おうとしている酒肴は、地域によってそれが肉であったりチ−ズであったり、あるいはナッツと様々だった。地域を跨いで流通する物もあるが、生憎セルフィーユでは大きく扱いの増えているような商材ではない。個人的にも歓迎すべきものだと、リシャールは微笑んだ。セルフィーユから荷を出すならば油漬けや干物などの、魚介類の加工品になるだろう。それらは何もラ・クラルテ商会が独占しているわけではないし、漁師の妻が生活費の足しにと作る物を引き取ることも出来よう。
 彼の前に独立した青年は扱う品に書籍を選んでいたし、その前の壮年男性は服飾品だっただろうか。
 農村に魚を、漁村に麦を。これは商売の基本論理である。
 商人は産地から消費地へと商品を運び、商うことで利益を得る。あるいは職人や技術者を抱えて加工品を売るなど、複合的な事業を行うことも多い。足の遅い商品を抱え、需要を待って高騰したところで利ざやを得るような方法もあった。
 専売や囲い込み、買い占め、品質差、付加価値、戦乱や災害による緊急需要など、細かい条件付けが異なればまた事情は違ってくるが、産地で買った物をそのまま産地で売ろうとしても、通常は利益にならない。
 そして人々は、衣食が満ち足りれば嗜好品や奢侈品に手を伸ばす。
 目の前の彼の選択を見るまでもなく、セルフィーユは『田舎』を脱却し、『地方都市』への第一歩を踏み出しつつあった。

「お疲れさま、リシャール」
「んば−!」
「うん、ありがとう。マリーもね」
 ここ数日は錬金鍛冶も一休みとして、夜は家族との団らんに時間を当てている。あれもこれもでは、流石に体が保たない。
「ん? キュルケからの手紙かい?」
「ええ。
 お家を出る直前に書いてくれたみたい。
 今頃はもうヴィンドボナの魔法学院かしら」
「学校か……」
 リシャールが学校に通っていたのは随分と昔、こちらに生を受ける前の話だ。思い返せば三十年以上も前になるのだからそれなりに懐かしさもあるが、もう一度通えと言われると苦笑いをするしかない。
 年回りから言えば魔法学院なり士官学校なりに入学することも可能だったが、同世代の貴族子弟との横の繋がりという大きなメリットはあっても、屋台骨である領地を放り出してしまうわけにはいかなかった。安定期には入っていないセルフィーユで代官や領主代理を立てるには、少々どころではなく問題も多いのだ。
 カトレアも魔法学院には通っていなかったが、彼女の場合はまた別の理由があった。就学の適齢に達した当時は、病弱な体が学院に通うことを阻んでいたから仕方がない。
 多少は憧れのようなものもあるのか、彼女はにこにこと手紙を読み返している。ルイズが入学するのは来年の予定だが、遊びに行くのもいいかもしれない。同じく来年入学予定のクロードへの土産もたくさん持っていこうと、リシャールは心の手帳に控えを取った。
「来年は魔法学院に遊びに行くからね」
「ええ、楽しみだわ」
「えうー」
「うん、マリーもいっしょだよ」
 カトレアからマリーを受け取り、膝の上に乗せる。順調に体重も増えてきたので、少し力を入れないと持ち上がらなくなってきた。最近は寝返りを繰り返し、ころころとベッドの上を転がって移動するようになった彼女である。はいはいを覚えるのも近いだろうと家具を追い出して毛布を敷き詰めた部屋を用意したほどだが、当然ながらカトレアらには苦笑された。
「マリーもあっという間にそんな歳になるんだろうなあ」
「あー?」
「うんうん。すぐだよー」
 今はリシャールの指を握って遊ぶマリーだが、そろそろぬいぐるみ以外の玩具なり絵本なりを用意するのもいいかもしれない。
「カトレア、マリーに積み木はまだ早いかな?」
「お父様から送っていただいた荷物の中にはあったかしら……」
「むー?」
 そう言えば、城にも書庫はあったが棚が並ぶばかりで使われておらず、カトレアが嫁ぐときに私物として持ってきた僅かな読み物以外、セルフィーユ家には書籍がなかったとリシャールは思い出していた。私室にある紙束を閉じた冊子は武具の錬金に必要な試行錯誤とその結果を書き散らしただけのものだし、執務室にあるものは統治に関係する無味乾燥な資料や統計をまとめたものが殆どだった。双方共に大事な物だが読み物ではない。
 新しく本を商いはじめた青年が城を尋ねてくるようなことがあれば、注文を出そうか。特別な注文を出さねば手に入らないような逸品でなく、平民でも手に取れるような価格も安く内容の薄い本であれ、あれば読書そのものの練習になる。それは今目の前にいるマリーのためだけではなく、その後に続くはずのセルフィーユ家の子孫の為にも良いことだと思えた。
 絵本とそれに続く簡単な子供向けの読み物、これらをマリーの成長にあわせて順繰りに揃えていけば自然と代々残せる財産ともなろう。高価な実用書の類は、必要に応じて買い足せばいい。
「あう!」
「ん、ごめんごめん」
 考え事をしていて手の方が疎かになっていたようだ。リシャールはマリーの機嫌をとろうと、指で狐の形を作って見せた。
 明日にはルイズやクロードを迎えに行った『ドラゴン・デュ・テーレ』が帰港し、明後日には感謝祭も催される。予備の客間や料理の用意など可能な限りの準備はしてあるが、某かの問題は必ず起きるものだ。
 それがなるべく少なければいいなと、リシャールはため息をついた。






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